***ミルフィーユの空
空が少しずつ、白みはじめる。
鉛に白に紺に橙に碧に。
1mmごとに繊細に色を変えるミルフィーユの空を見ながら。
僕は顔を上げた。
自分のことしか、好きじゃないんでしょう?
捲くし立てるように悠 さんが言った言葉が占拠する。
自分のことしか、見てないんだよ、勲雄 は。
だから、薄っぺらい。
誰に対しても、一緒なんだ。
永久 は可哀想。
あなたみたいな人を、「とても優しい幼なじみ」だなんて思ってて。
何も見えてないんだよ。じゃなくちゃ、勲雄みたいに能面みたいな笑顔の人間を、「いいひと」だなんて言えるはずない。
そうかもしれない。
思いながら、寝息もたてずに死んだように眠る雅 へと視線を動かす。
今、彼女にしてる子だって、どうせ利用しようとしてるだけでしょう?
どうなんだろう。可愛いと思ったのは本当だし、告白されて悪い気はしなかった。だから付き合いはじめたけれど。
雅じゃなくてもよかった。別に誰だってよかった。
好きでもない子と付き合うことの、どこが悪いのかとも思う。そんなこと、誰だってすることだ。
利用して、何が悪い?
どうせ、悠さんは僕のことを嫌っているに違いないんだから。
永久が鬱陶しくなったから、彼女を作ったんでしょう? 遠ざけるために。
それは違うよ、悠さん。
とわのことを鬱陶しいだなんて考えたことは一度だってない。
ただ、効き目がなくなってきたなと思ったから。
一緒に居ても、悠さんは気にしないようになっていった。
隣にとわが居ても、もうあなたは僕のことを見てくれない。
だから、別の子と居た方がいいと思っただけで。
悠さんはいつだって、僕を責める。
言葉で。態度で。視線で、すべて。
僕を一つ残らず否定する。
彼女に「勲雄は最低だ」と言われる度に、その証拠を羅列される時だけ、僕の冷めた躰は熱を帯びる。
彼女に見下されている時だけ、僕は隙間を忘れることが出来る。
何をしても満たされない、心の隅にある、冷め切った領域を。
空の色が、次第に大雑把なグラデーションへと変わってゆく。
上りはじめの太陽の光をまともに見てしまい、目を閉じると瞼の奥で光の痕跡がちかちかと光った。
いつまでも悠さんが僕を拒否し続けてくれたらいい。
思いながら、雅が目を覚ますのを静かに待った。
バレンタイン当日に書いた曰く付きのお話。徹夜明けに、実際にミルフィーユ状の空色を見て思いついて書き殴ったのよ。
「友達ごっこ」より、勲雄のモノローグ。わーい、変態さんだー。……ごめんなさい。
もしも彼が、若しくは彼女が少しでも素直になって、プライドをかなぐり捨てて気持ちを伝えることが出来ていたのならば、周りが振り回されることもなかったんだろうけど。そんな簡単にいくなら、物語はみんな1行で終わってしまうよな。
結局、ステージにあがっていたのははじめから2人だけだったというお話。雅も永久も、ステージにたどり着いてもいなかったんだ。
初出:2004.2.14日記 2005.2.20UP